法人営業の売上が伸び悩み、個人のスキルに依存した体制に限界を感じている企業は少なくありません。
売上を安定して向上させるためには、属人的な営業から脱却し、組織で成果を出す「仕組み作り」を考えていく必要があります。
本記事では、売上が上がらない原因分析から、再現性のある営業組織を構築するための具体的な5ステップ、明日から使えるテクニック、国内企業の成功事例までを網羅的にご紹介します。
1. なぜあなたの会社の法人営業は売上が上がらないのか
多くの企業で売上向上に課題を抱えていると思いますが、その原因は個々の営業担当者の能力不足というわけではありません。むしろ、問題の根源は組織全体の「仕組み」に潜んでいるケースがほとんどです。
ここでは、多くの企業が陥りがちな売上が伸び悩む4つの典型的な原因を深掘りし、貴社の状況と照らし合わせながら課題を明確にするための参考としてください。
1.1 個人のスキルに依存する属人化した営業体制
特定の優秀な営業担当者、いわゆる「エース営業」や「社長」の個人的なスキルや人脈に売上の大半を依存している状態は、非常にリスクが高いと言えます。
このような属人化した体制では、そのエース営業が退職したり、異動したり、あるいは不調に陥った途端に、組織全体の売上が大きく落ち込む危険性を常に抱えています。また、成功のノウハウが個人の中に留まってしまうため、他のメンバーに共有されず、組織としての営業力が底上げされません。
結果として、新人や若手社員がなかなか育たず、担当者間の成果に著しい格差が生まれるなど、長期的な成長を阻害する大きな要因となります。
1.2 場当たり的で非効率な営業活動
明確な営業戦略や行動計画が存在せず、「勘・経験・度胸」といった曖昧な基準で日々の営業活動が行われている場合、成果を安定させることは困難です。
例えば、ターゲット顧客が不明確なままとりあえずリストの上から順にテレアポをかけたり、目的意識の薄いまま既存顧客を訪問したりする活動は、多くの時間と労力を浪費するだけで、費用対効果が著しく低くなります。どの活動が実際の売上に結びついているのかをデータに基づいて分析できていないため、改善の方向性も見出せません。
営業担当者は日々の業務に忙殺され疲弊する一方で、思うような成果が出ないという負のスパイラルに陥ってしまいます。
1.3 営業プロセスが可視化できていない
顧客との最初の接点である「リード獲得」から、「顧客育成」「商談化」「提案」「受注」に至るまでの一連の営業プロセスが、組織全体で共有・管理されていない状態も、売上停滞の大きな原因です。
各営業担当者がどのような案件を抱え、今どの段階にあるのかがマネージャーやチーム全体で把握できていない、いわゆる「ブラックボックス化」した状態では、的確なアドバイスやサポートを行うことができません。
また、プロセス全体の中でどこにボトルネック(障壁)があるのか、例えば「アポイントは獲得できるが商談化率が低い」のか、「提案後のクロージングに課題がある」のかを特定できないため、具体的な改善策を講じることができなくなります。
1.4 新規顧客の開拓が思うように進まない
既存顧客からの売上に依存し、新たな顧客基盤を築くための活動が後回しになっている企業も少なくありません。既存顧客との良好な関係維持は事業基盤として極めて重要ですが、それだけに頼る経営は、顧客の事業方針の転換や市場の変化といった外部要因によって、ある日突然売上が激減するリスクを伴います。
多くの企業では、従来のテレアポや飛び込み営業といった手法に限界を感じつつも、Webサイトやオンラインセミナーなどを活用した効率的なリード獲得の仕組みを構築できていません。
新規顧客の獲得には一定の時間がかかりますので、安定した事業成長のためには、常に新しい顧客との接点を創出し続ける能動的な仕組み作りが不可欠です。
2. 法人営業の売上を上げるためにまずやるべきこと
法人営業の売上が伸び悩んでいる状況から脱却し、安定した成長軌道に乗せるためには、闇雲に行動するのではなく、まず自社の現状を正確に把握し、戦略の土台を固めることが不可欠です。
ここでは、具体的な仕組み作りに入る前に、必ず押さえておくべき4つの重要なステップをご紹介します。これらの準備を徹底することが、後の施策の効果を最大化する鍵となります。
2.1 売上を構成する要素とは?
「売上を上げる」という漠然とした目標を具体的な行動に落とし込むため、まずは売上がどのような要素で構成されているのかを分解して理解する必要があります。
法人営業の売上は、一般的に次のシンプルな方程式で表すことができます。
売上 = 顧客数 × 顧客単価 × 購入頻度
さらに、この方程式を営業活動のプロセスに沿って細分化すると、課題の特定がより容易になります。例えば、新規顧客獲得における売上は、以下のように分解できます。
新規売上 = 見込み客数(リード数) × 商談化率 × 受注率 × 平均受注単価
このように要素分解することで、「リードの数は足りているが、商談化率が低い」「受注率は高いが、そもそも商談の数が少ない」といった、自社の営業組織が抱えるボトルネックが明確になります。
どの指標を改善することが売上向上に最もインパクトを与えるのかを客観的に判断し、リソースを集中させるべきポイントを見極めることが、効率的な売上アップの第一歩です。
2.2 ターゲット顧客と提供価値を再定義する
市場環境や顧客ニーズが変化し続ける現代において、かつて成功したターゲット設定が今も最適とは限りません。成果を出すためには、「誰に、どのような価値を提供するのか」を定期的に見直し、再定義することが極めて重要です。
まず、自社にとって最も価値のある理想の顧客像である「ICP(Ideal Customer Profile)」を明確にしましょう。BtoCだとペルソナと言われるものになります。過去の受注実績や優良顧客のデータを分析し、企業の業種、事業規模、地域、抱えている課題といった共通項を洗い出します。これにより、アプローチすべき企業の解像度が高まり、営業活動の無駄をなくすことができます。
次に、そのターゲット顧客に対して提供できる独自の価値(バリュープロポジション)を言語化します。自社の製品やサービスが、顧客のどのような課題を解決し、どのような利益(ベネフィット)をもたらすのかを明確に定義します。
単なる機能の紹介ではなく、「このサービスを使えば、〇〇という課題が解決され、結果としてコストが△△%削減できる」といったように、顧客視点での価値を伝えることが重要です。競合他社と比較した際の優位性や自社の差別化要素も併せて明確にすることで、営業担当者は自信を持って提案できるようになります。
2.3 営業戦略と具体的な目標(KGI・KPI)を設定する
ターゲットと提供価値が明確になったら、次はその目標を達成するための具体的な営業戦略と数値目標を設定します。戦略なき営業活動は、場当たり的な行動の繰り返しに陥り、組織としての成長につながりません。
営業戦略では、どの市場セグメントに注力するのか、新規顧客開拓と既存顧客の深耕のどちらに比重を置くのか、といった大きな方針を定めます。まずは既存顧客からアプローチをして、その経験をもとに新規顧客へアプローチする流れが望ましいと思っています。
その上で、最終的なゴールであるKGI(重要目標達成指標)を設定します。これは「年間売上〇〇億円達成」や「市場シェア〇〇%獲得」といった、事業全体の目標となります。そして、KGIを達成するための中間指標として、具体的な行動に結びつくKPI(重要業績評価指標)を設定します。先に分解した売上の構成要素、例えば「月間新規リード獲得数」「商談化率」「受注率」「平均顧客単価」などをKPIとして設定します。
目標を設定する際は、「SMART」の法則(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限が明確)を意識することで、より実効性の高い目標となります。KGIとKPIが明確になることで、営業チームは日々の活動の目的を理解し、モチベーションを高く保ちながら業務に取り組むことができます。
2.4 顧客の購買プロセスを理解する
現代の法人営業において、売り手側の都合でプロセスを進める「プロダクトアウト」的な発想は通用しにくくなっています。顧客が自ら情報を収集し、比較検討することが当たり前になった今、成功の鍵を握るのは顧客の購買プロセスを深く理解することです。
購買プロセスとは、顧客が課題を認知し、解決策を探し始め、最終的に製品やサービスの購入を決定するまでの一連の道のりを指します。一般的に、このプロセスは以下の3つの段階に分けられます。
- 認知段階:自社に何らかの課題があることに気づき、情報収集を始める段階。
- 検討段階:課題解決のための具体的な方法やサービスを比較・検討する段階。
- 決定段階:導入するサービスや発注先の企業を最終的に選定する段階。
自社のターゲット顧客が、それぞれの段階でどのような情報を求め、どのような心理状態にあるのかを徹底的に分析します。そのうえで、段階に合わせて具体的なアプローチ方法を検討していきます。
例えば、認知段階の顧客にいきなり製品の詳しい仕様を説明しても響きませんが、課題解決のヒントとなるような情報提供は有効です。また検討段階の顧客へ詳しい仕様を提供する場合は、WEB経由で容易に取得できるようにしておくなど、検討が必要です。
顧客の状況に合わせた適切なタイミングで、適切な情報を提供することで、顧客との信頼関係を構築し、自然な形で次のステップへと導くことができます。この顧客視点の理解が、後述する営業プロセスの標準化やマーケティング施策の土台となります。
3. 【5ステップ】法人営業の売上を安定させる仕組み作りの手順
法人営業の売上を、組織として安定的に向上させる「仕組み」の構築を行うことを想定し、誰が担当しても一定の成果を出せる再現性の高い営業組織を作るための具体的な5つのステップを、順を追って詳しく解説します。
3.1 ステップ1 営業プロセスを標準化する
売上を安定させる仕組み作りの第一歩は、営業活動の各段階を定義し、行動を標準化することです。これにより、営業担当者ごとの品質のばらつきをなくし、組織全体の営業力を底上げできます。
また、各プロセスでの課題が明確になり、改善策を講じやすくなるというメリットもあります。具体的には、顧客との最初の接点から受注後のフォローに至るまでの一連の流れを分解し、それぞれのフェーズで「何を」「どのように」行うべきかを定義します。
3.1.1 リード獲得(集客)
リード獲得は、自社の製品やサービスに興味を持つ可能性のある見込み顧客(リード)の情報を獲得する最初のフェーズです。どのようなチャネルから、どのような質のリードを、どれくらい獲得するのかを明確に定義します。
Webサイトからの問い合わせフォーム、SEO対策による自然検索流入、Web広告、SNS運用、展示会への出展、共催ウェビナーの開催、お役立ち資料(ホワイトペーパー)のダウンロードなど、自社のターゲット顧客に合わせた最適な手法を組み合わせることが重要です。
3.1.2 リード育成(ナーチャリング)
獲得したすべてのリードが、すぐに商談につながるわけではありません。特に法人営業では検討期間が長くなる傾向があるため、継続的な情報提供を通じて顧客の購買意欲を高めていく「リード育成(ナーチャリング)」のプロセスが極めて重要になります。
メールマガジンでの定期的な情報発信、顧客の検討段階に合わせたステップメールの配信、導入事例資料の送付などを通じて、顧客との関係を構築し、「まずはこの会社に相談してみよう」と思ってもらえるような信頼を醸成します。
3.1.3 商談化(アポイント獲得)
育成したリードの中から、具体的な商談に進むべき有望な顧客を見極め、アポイントを獲得するフェーズです。ここでは、Webサイトの閲覧履歴やメールの開封率といった顧客の行動を点数化する「スコアリング」という手法が有効です。
一定のスコアに達したリードに対して、電話やメールでアプローチし、課題やニーズをヒアリングした上で商談を設定します。この段階で、顧客の課題が自社サービスで解決可能かを見極めることで、その後の商談の質を高めることができます。
3.1.4 提案・クロージング
アポイントを獲得した顧客に対して、具体的な提案を行い、契約を締結(クロージング)するフェーズです。このプロセスでは、標準化されたヒアリングシートを用いて顧客の課題を深掘りし、その課題解決に貢献できることを示す提案書のテンプレートを活用します。
価格提示のタイミングや交渉の進め方、クロージングのトークスクリプトなどを整備しておくことで、経験の浅い営業担当者でも自信を持って商談に臨むことができ、成約率の向上につながります。
3.1.5 受注後のフォローアップ
受注はゴールではなく、顧客との長期的な関係のスタートです。製品やサービスを導入した顧客がその価値を最大限に実感できるよう、導入支援(オンボーディング)のプロセスを標準化します。
操作説明会の実施、活用マニュアルの提供、定期的なフォローアップコールなど、手厚いサポート体制を整えることで顧客満足度を高め、継続利用や追加発注(アップセル・クロスセル)へとつなげていきます。
このフェーズは、後述するカスタマーサクセス部門が担うことが多く、営業部門からのスムーズな情報連携が鍵となります。
3.2 ステップ2 営業組織の役割を最適化する
営業プロセスを標準化したら、次はそのプロセスを最も効率的に実行できる組織体制を構築します。従来のように一人の営業担当者がリード獲得から受注後のフォローまで全てを担うのではなく、各プロセスの専門部隊を配置する「分業体制」を導入することで、生産性を飛躍的に向上させることが可能です。
代表的なモデルが「The Model(ザ・モデル)」と呼ばれる組織形態です。会社の規模によって、どこまで分業するか検討が必要ですが、それぞれの役割に対して、誰が何を行うのかを整理する必要はあります。
3.2.1 マーケティング部門とインサイドセールス
マーケティング部門は、主に「リード獲得」を担います。Webサイトの運営や広告出稿、セミナー企画などを通じて、質の高い見込み顧客を集めることに特化します。そして、獲得したリードを引き継ぎ、「リード育成」と「商談化」を担うのがインサイドセールスです。
電話やメール、Web会議システムなどを活用して非対面で顧客とコミュニケーションを取り、購買意欲を高めて有望な商談を創出します。この2つの部門が連携し、リードの質や量に関する共通目標を設定することが成功の鍵です。
3.2.2 フィールドセールスとカスタマーサクセス
インサイドセールスが創出した商談を引き継ぎ、「提案・クロージング」に専念するのがフィールドセールス(外勤営業)です。顧客先へ訪問したり、オンラインで詳細な提案を行ったりと、案件を成約に導く役割を担います。
そして、無事に受注した顧客を引き継ぎ、「受注後のフォローアップ」を専門に行うのがカスタマーサクセスです。顧客が製品・サービスを最大限に活用して事業上の成功を収められるよう能動的に支援し、顧客満足度とLTV(顧客生涯価値)の最大化を目指します。
3.3 ステップ3 営業支援ツールで顧客情報を一元管理する
標準化されたプロセスと分業化された組織を円滑に機能させるためには、テクノロジーの活用が欠かせません。営業支援ツールを導入し、顧客情報や営業活動の履歴を一元管理することで、部門間のスムーズな情報連携を実現し、データに基づいた意思決定が可能になります。
3.3.1 SFA(営業支援システム)
SFA(Sales Force Automation)は、営業活動を可視化し、効率化するためのツールです。各営業担当者の商談の進捗状況、活動履歴、受注見込みなどを一元管理できます。これにより、管理者はリアルタイムで全体の状況を把握し、的確な指示を出せるようになります。
また、報告業務の負担が軽減され、営業担当者は本来注力すべき顧客との対話に時間を使えるようになります。代表的なツールには「Salesforce Sales Cloud」や「Sansan」、「e-セールスマネージャー」などがあります。
3.3.2 CRM(顧客関係管理)
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客情報を一元管理し、顧客との良好な関係を構築・維持するためのツールです。企業名や担当者情報といった基本情報に加え、過去の購買履歴、問い合わせ内容、Webサイトでの行動履歴など、顧客に関するあらゆる情報を蓄積します。
SFAが「商談」の管理に特化しているのに対し、CRMは「顧客」との関係性全体を管理するもので、多くのSFAにはCRMの機能も統合されています。「HubSpot」や「Zoho CRM」などが有名です。
3.3.3 MA(マーケティングオートメーション)
MA(Marketing Automation)は、主にリード獲得から育成までのプロセスを自動化・効率化するためのツールです。Webサイトに来訪した見込み顧客の行動を追跡し、その興味関心度合いに応じてメールを自動配信したり、有望なリードをスコアリングしてインサイドセールスに通知したりといった役割を担います。
手作業では膨大な工数がかかるナーチャリング活動を自動化することで、効率的に商談機会を創出できます。代表的なツールとして「Marketo Engage」や「Pardot」が挙げられます。
3.3.4 生成AI(ジェネレーティブAI)
近年、営業活動の生産性をさらに高めるツールとして生成AIの活用が急速に進んでいます。顧客へのメール文面の自動作成、商談後の議事録の要約、顧客の課題に合わせた提案書のドラフト作成など、様々な業務をAIが支援します。
これにより、営業担当者はより創造的で付加価値の高い活動に集中できるようになります。多くのSFA/CRMツールにも生成AI機能が搭載され始めており、今後の営業活動に不可欠な存在となるでしょう。
3.4 ステップ4 成功事例やノウハウを共有する体制を整える
優れたプロセスやツールを導入しても、それを使いこなす「人」が育たなければ仕組みは形骸化してしまいます。個々の営業担当者が持つ成功体験やノウハウ、あるいは失敗から得た教訓を、組織全体の資産として共有し、活用する文化を醸成することが重要です。
トップセールスの商談テクニックや効果的だった提案書の事例などを形式知化し、誰もがアクセスできる状態にすることで、組織全体の営業力の底上げにつながります。定期的な営業会議での事例共有会や、SFA/CRM上にナレッジを蓄積するデータベースの構築、社内チャットツールでの活発な情報交換などが有効な手段です。
3.5 ステップ5 PDCAサイクルを回し継続的に改善する
営業の仕組みは、一度構築したら終わりではありません。市場環境や顧客ニーズ、競合の動向は常に変化しています。そのため、構築した仕組みが常に最適であるかを検証し、継続的に改善していく活動が不可欠です。
ここで重要になるのが、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回すことです。「Plan(計画)」で設定したKGI・KPI(重要目標達成指標・重要業績評価指標)に対し、「Do(実行)」した結果がどうだったかをSFAなどのデータを用いて「Check(評価)」します。
そして、目標とのギャップやボトルネックを分析し、次の「Action(改善)」につなげるのです。このサイクルを組織的に回し続けることで、変化に強い、安定して成長し続ける営業組織を築くことができます。
4. 明日から使える 法人営業で売上を上げる具体的テクニック
営業の仕組み化と並行して、日々の営業活動における一つひとつのアクションの質を高めることは、売上向上に直結する重要な要素です。
大掛かりな改革だけでなく、現場の営業担当者が明日からすぐに実践できる具体的なテクニックを身につけることで、組織全体の営業力は着実に底上げされます。
この章では、既存顧客へのアプローチから新規開拓、商談、そして失注後のフォローまで、各フェーズで成果を出すための実践的なテクニックを詳しく解説します。
4.1 既存顧客の売上を最大化するアップセル・クロスセル
新規顧客の獲得には多くのコストと時間がかかりますが、すでに取引のある既存顧客との関係性を深めることで、より効率的に売上を伸ばすことが可能です。その中心となるのが「アップセル」と「クロスセル」です。顧客のビジネスを深く理解し、LTV(顧客生涯価値)を最大化するためのアプローチを習得しましょう。
4.1.1 アップセル:より上位の価値を提案する
アップセルとは、顧客が現在利用している製品やサービスよりも高価格帯の上位モデルやプランを提案し、顧客単価を引き上げる手法です。成功の鍵は、単なる「高いものを売る」のではなく、「顧客の成功により大きく貢献する」という視点を持つことです。
定期的なフォローアップの際に顧客の利用状況や新たな課題をヒアリングし、「現在お使いのプランでは〇〇という課題が残りますが、上位プランに移行することで△△まで解決でき、事業成長をさらに加速できます」といったように、顧客が得られる具体的なメリットを提示することが重要です。
導入後の成功事例を交えながら提案することで、説得力は格段に高まります。
4.1.2 クロスセル:関連商材で課題解決の幅を広げる
クロスセルとは、顧客が利用中の製品やサービスに関連する別の商材を提案する手法です。例えば、会計ソフトを導入している顧客に対し、連携可能な経費精算システムを提案するなどが典型例です。
クロスセルを成功させるには、顧客の事業全体や関連部署の業務フローまで視野を広げて課題を把握する必要があります。「現在ご利用の〇〇と、こちらの△△を組み合わせていただくことで、部署間のデータ連携がスムーズになり、会社全体の生産性が向上します」のように、相乗効果を具体的に示すことで、顧客にとっての導入価値が明確になります。
顧客のビジネスパートナーとして、新たな価値創造を支援する姿勢が求められます。
4.2 新規開拓で成果を出すためのアプローチ手法
企業の持続的な成長には、新規顧客の開拓が不可欠です。しかし、従来型のテレアポや飛び込み営業だけでは効率が悪く、担当者の疲弊を招きがちです。ここでは、現代のビジネス環境に即した、成果につながるアプローチ手法をご紹介します。
4.2.1 質の高いターゲットリストを作成する
成果の出ないアプローチの多くは、ターゲットの選定ミスに起因します。まずは自社にとって最も価値を提供できる理想の顧客像(ICP)を明確に定義しましょう。業界、企業規模、事業内容、抱えているであろう課題などを具体的に設定します。
その上で、企業情報データベースや業界ニュース、展示会の出展者リストなどを活用し、条件に合致する企業のリストを作成します。リストの質がアプローチの質を左右することを常に意識しましょう。
4.2.2 コールドコール・コールドメールの成功率を高めるコツ
見込み客への最初のアプローチであるコールドコールやコールドメールは、一工夫加えるだけで成功率が大きく変わります。
重要なのは、一方的な売り込みにならないことです。事前に相手企業のウェブサイトやプレスリリース、中期経営計画などを読み込み、「貴社の〇〇という取り組みを拝見し、弊社のサービスが△△の点でお役立てできるのではないかと考え、ご連絡いたしました」というように、相手に合わせた個別のアプローチを心がけましょう。
相手の課題を仮説立てし、その解決に貢献したいという姿勢を示すことが、話を聞いてもらうための第一歩です。
4.2.3 リファラル(紹介)営業を活用する
最も質の高い見込み客は、満足度の高い既存顧客からの紹介によってもたらされることが少なくありません。日頃から顧客との良好な関係を築き、導入成果が出たタイミングなどで、「もし〇〇様と同じような課題をお持ちの企業様をご存知でしたら、ぜひご紹介いただけませんでしょうか」と丁寧にお願いしてみましょう。
紹介してくれた顧客や、紹介された企業にもメリットがあるようなキャンペーンを用意することも有効な手段です。信頼をベースにした紹介は、その後の商談もスムーズに進みやすくなります。
4.2.4 SNSを活用したソーシャルセリング
LinkedInなどのビジネスSNSを活用する「ソーシャルセリング」も、有力なアプローチ手法の一つです。ターゲット企業のキーパーソンを探し出してコンタクトを取り、すぐに売り込むのではなく、まずは業界の有益な情報を発信したり、相手の投稿にコメントしたりすることから始めます。
時間をかけて専門家としての認知と信頼を構築し、相手が課題を感じたタイミングで自然に相談されるような関係性を目指す、中長期的なアプローチです。
4.3 商談の質を高めるヒアリングと提案のコツ
商談は、自社の商品を説明する場ではなく、顧客の課題を深く理解し、その解決策を共に創り上げる「共創」の場です。商談の質を高めることが、受注率の向上に直結します。ここでは、顧客の心をつかむヒアリングと提案の技術を解説します。
4.3.1 顧客の課題を深掘りするSPIN話法
SPIN話法は、顧客自身に課題の重要性を認識させ、解決への意欲を高めるための有効なヒアリングフレームワークです。
- Situation(状況質問):「現在の業務フローはどのようになっていますか?」など、顧客の現状を把握する質問。
- Problem(問題質問):「その中で、特に不便を感じる点や課題はありますか?」など、顧客が抱える問題点を明確にする質問。
- Implication(示唆質問):「その問題があることで、コストや時間にどのような影響が出ていますか?」など、問題がもたらす悪影響を認識させる質問。
- Need-payoff(解決質問):「もしその問題が解決できれば、どのようなメリットがありますか?」など、解決後の理想の姿をイメージさせる質問。
この流れでヒアリングを進めることで、顧客は自らの課題を客観的に捉え、解決の必要性を強く感じるようになります。
4.3.2 決裁者を見極めるBANT条件の活用
商談を効率的に進めるためには、BANT条件を確認することが重要です。BANTとは、Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)の頭文字を取ったものです。
これらの情報をヒアリングすることで、案件の確度を測り、適切なネクストアクションを判断できます。「今回のプロジェクトのご予算規模は、どのくらいでお考えでしょうか」「最終的なご判断は、どなたがされるのでしょうか」といった質問を、商談の適切なタイミングで自然に投げかけるスキルが求められます。
4.3.3 相手に響く提案ストーリーの作り方
優れた提案は、単なる機能の羅列ではありません。顧客の心を動かすストーリーになっています。まずはヒアリングで明確になった顧客の課題を改めて共有し、「その課題は、弊社のこのサービスでこのように解決できます」と結論を提示します。
そして、導入によって顧客のビジネスがどのように変わるのか、理想の未来(Before/After)を具体的に描きます。その上で、実現に向けた具体的なプラン、スケジュール、費用を提示するという流れが効果的です。機能(Feature)ではなく、それによって顧客が得られる価値(Benefit)を語ることを常に意識しましょう。
4.4 失注案件を次につなげる分析とフォロー
営業活動において、失注は避けて通れません。しかし、失注は単なる失敗ではなく、自社の製品や営業プロセスを改善するための貴重な情報が詰まった「宝の山」です。失注から学び、次につなげる仕組みを持つことが、長期的な成功の鍵となります。
4.4.1 失注原因を客観的に分析する
失注後は、感情的にならずに原因を客観的に分析することが重要です。価格、機能、導入時期、サポート体制、競合他社の提案内容、担当者との関係性など、考えられる要因を冷静に振り返りましょう。
可能であれば、顧客に失注理由を直接ヒアリングすることも有効です。「今後のサービス改善の貴重なご意見としてお伺いしたいのですが」と丁寧に依頼すれば、教えてもらえるケースも少なくありません。得られた情報は、必ず記録として残しましょう。
4.4.2 敗因を次に活かすためのアクションプラン
失注原因の分析だけで終わらせては意味がありません。分析結果を基に、具体的な改善アクションプランを立てることが不可欠です。「価格で負けた」のであれば、コストパフォーマンスの高さを伝えるトークや資料を見直す。「機能面で劣っていた」のであれば、製品開発部門へ具体的な顧客ニーズとしてフィードバックする。このように、分析結果を個人やチーム、さらには会社全体の改善活動につなげていく文化を醸成しましょう。
4.4.3 継続的なフォローで将来の機会を創出する
「今回はご縁がありませんでした」で関係を終えてしまうのは非常にもったいないことです。失注した顧客も、将来の優良顧客になる可能性があります。関係を断つのではなく、数ヶ月に一度、業界の最新情報やお役立ち資料を送るなど、相手にとって有益な情報提供を続けましょう。
このような丁寧なフォローは、顧客の状況が変化した際(例えば、導入した競合製品に不満が出た、新たな課題が発生したなど)に、真っ先に相談される存在になるための重要な布石となります。
5. 仕組み化で法人営業の売上を上げた国内企業の成功事例
ここでは、実際に営業の仕組み化に取り組み、売上向上を実現した国内企業の成功事例を3つご紹介します。自社の課題と照らし合わせながら、具体的な施策のヒントとしてご活用ください。
5.1 事例1 SFA導入で営業活動を可視化し売上を上げたA社
中堅ITソリューション企業のA社は、長年トップセールスの個人的なスキルに依存した営業体制に課題を抱えていました。各営業担当者が独自の方法で活動していたため、マネージャーは部下の案件進捗を正確に把握できず、適切なアドバイスが困難な状況でした。
また、誰がどの顧客にいつアプローチしたのかという情報が共有されず、非効率な重複アプローチや、有望な見込み客の放置が発生していました。
そこでA社は、SFA(営業支援システム)の導入を決断。営業活動に関するあらゆる情報(顧客情報、商談履歴、進捗状況、次回アクション予定など)をSFAに記録することを徹底しました。これにより、今までブラックボックス化していた各担当者の営業活動が可視化され、マネージャーはデータに基づいた客観的な状況把握と的確な指示出しが可能になりました。
さらに、失注案件の理由を分析し、次の営業戦略に活かすサイクルも生まれました。結果として、組織全体の営業プロセスが標準化され、商談化率が向上、売上も成長を達成しました。
5.2 事例2 The Model型組織で生産性を向上させたB社
急成長中のSaaS企業であるB社では、一人の営業担当者が新規リードの開拓から商談、契約後のフォローまでを一気通貫で担当していました。しかし、事業拡大に伴い顧客数が急増すると、既存顧客の対応に追われ、新規開拓にかける時間が不足するという問題が顕在化。営業担当者一人ひとりの業務負荷が増大し、生産性が頭打ちになっていました。
この課題を解決するため、B社は営業プロセスを分業化する「The Model」型の組織体制へと移行しました。具体的には、見込み客を獲得する「マーケティング」、見込み客を育成し商談を創出する「インサイドセールス」、商談とクロージINGに専念する「フィールドセールス」、そして契約後の顧客を成功に導き継続利用を促進する「カスタマーサクセス」の4つの部門を設置。
各部門がそれぞれのKPIに責任を持つことで、専門性が高まりました。結果、インサイドセールスが質の高い商談を安定的に供給できるようになったことでフィールドセールスの受注率が大幅に向上。さらに、カスタマーサクセスの手厚いフォローにより解約率が低下し、LTV(顧客生涯価値)の最大化に成功。組織全体の生産性が飛躍的に高まり、安定した売上成長の基盤を築くことができました。
5.3 事例3 営業研修とナレッジ共有で組織全体の底上げに成功したC社
機械部品メーカーのC社では、ベテラン営業担当者の経験と勘に頼った営業スタイルが主流で、一部のトップセールスが売上の大半を稼ぎ出していました。その一方で、若手や中堅の営業担当者はなかなか成果が出ず、スキル格差が大きな課題となっていました。成功ノウハウが個人に属人化しており、組織の資産として蓄積・共有される仕組みがなかったのです。
C社は、この属人化からの脱却を目指し、営業研修の体系化とナレッジ共有の仕組み構築に着手しました。まず、トップセールスの行動特性や商談の進め方を分析し、独自の営業メソッドとして標準化。そのメソッドを基にした研修プログラムやロールプレイングを定期的に実施しました。
さらに、CRM(顧客関係管理)ツールを導入し、成功した提案資料や商談の議事録、顧客からのよくある質問への回答などを誰もが閲覧できるナレッジベースを構築。週に一度、成功事例や失敗事例を共有するミーティングを開催し、組織全体で学び合う文化を醸成しました。
これらの取り組みにより、営業担当者全体のスキルが底上げされ、個人のパフォーマンスのばらつきが縮小。チームとして安定的に目標を達成できるようになり、組織全体の売上向上へとつながりました。
6. まとめ
法人営業の売上が伸び悩む根本的な原因は、特定の個人のスキルに依存した属人的な営業体制にあります。しかし、何から手をつければ良いか分からず、お悩みの企業様も多いのではないでしょうか。
今回は、売上を安定して上げるための仕組み作りを5つのステップで具体的に解説しました。営業プロセスを標準化・可視化し、組織全体で成果を出す体制を構築することが、継続的な売上向上の鍵です。
ご紹介した手法を、ぜひ明日からの営業改革にお役立てください。