多くの企業で法人営業の人材不足が深刻化しており、放置すれば売上減少や競争力低下といった経営リスクに直結します。なぜ法人営業で人が足りなくなるのか、その原因と背景を理解することは対策の第一歩であると言えるでしょう。
本記事では、人材不足が引き起こす具体的なリスクを明らかにし、採用戦略の見直し、効果的な育成、定着率向上、DX活用といった、企業が取るべき実践的な対策を成功事例とともに網羅的に解説します。
1. 深刻化する法人営業の人材不足 その現状と背景
多くの企業にとって事業成長のエンジンとなる法人営業部門ですが、近年、その担い手となる人材の不足が深刻な経営課題としてクローズアップされています。単なる一時的な採用難というレベルを超え、構造的な問題として日本経済全体に影響を及ぼしかねない状況です。
ここでは、法人営業における人材不足の現状と、その背景にある大きな要因について解説します。
1.1 国内企業が直面する「営業が足りない」現実
現在、BtoB(企業間取引)を主軸とする多くの企業において、法人営業職の採用は困難な状況にあります。求人を出しても十分な数の応募者が集まらない、あるいは採用基準を満たす候補者が見つからないといった声が、業種や企業規模を問わず聞かれます。
特に、高い専門性や複雑な課題解決能力が求められるソリューション営業や、新規開拓を担う営業担当者の不足は顕著です。有効求人倍率を見ても、営業職全体として高い水準で推移しており、企業側の採用意欲に対して求職者の数が追いついていない「売り手市場」が続いています。
この状況は、単に欠員補充が難しいだけでなく、事業拡大や新規プロジェクトに必要な営業人員を確保できないという、企業の成長戦略そのものにブレーキをかける要因となっています。
1.2 人材不足を引き起こすマクロな環境変化
法人営業の人材不足は、単一の原因ではなく、複数の社会経済的な要因が複雑に絡み合って発生しています。その根底には、日本が抱える構造的な課題が存在します。
1.2.1 少子高齢化による労働力人口の絶対的減少
日本の急速な少子高齢化は、生産年齢人口(15歳~64歳)の減少という形で、労働市場全体に大きな影響を与えています。働く人の絶対数が減っているため、当然ながら法人営業の担い手となりうる人材のパイも縮小しています。これは、あらゆる業界・職種で人材獲得競争が激化する根本的な原因の一つです。
1.2.2 産業構造の変化と求められる営業スキルの変容
モノからコトへ、所有から利用へといった消費行動の変化や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展は、法人営業のあり方にも変革を迫っています。かつてのような御用聞き型や単なる製品説明型の営業スタイルでは通用しなくなり、顧客の潜在的な課題を発見し、データに基づいた提案やコンサルティングを行う能力が不可欠となっています。こうした高度なスキルを持つ人材は限られており、育成にも時間がかかるため、需要に対して供給が追いついていないのが現状です。
1.2.3 働き方に対する価値観の多様化
終身雇用や年功序列といった従来の日本型雇用システムが変化し、個人のキャリア観や働き方に対する価値観は大きく多様化しました。特に若い世代を中心に、ワークライフバランスを重視する傾向が強まっています。法人営業に対して「ノルマがきつい」「長時間労働になりがち」といったイメージを持つ人も少なくなく、他の職種と比較して敬遠される一因となっている可能性も指摘されています。
このように、法人営業の人材不足は、労働市場全体の変化、求められるスキルの高度化、そして働き方に対する価値観の変化といった、複数の大きな潮流が背景にある根深い問題なのです。企業は、この現状と背景を正しく認識した上で、効果的な対策を講じていく必要があります。
2. なぜ法人営業で人材不足が起きるのか 主な原因を解説
多くの企業で課題となっている法人営業の人材不足ですが、その背景には複合的な原因が存在します。単一の理由ではなく、社会構造の変化から働き方に対する価値観の変容まで、様々な要因が絡み合っているのが実情です。ここでは、法人営業の人材不足を引き起こしている主な原因について、詳しく解説していきます。
2.1 営業職に対する根強いネガティブイメージ
残念ながら、営業職、特に法人営業に対しては、いまだに「ノルマがきつい」「精神的にプレッシャーが大きい」「長時間労働になりがち」「飛び込み営業やテレアポが大変」といったネガティブなイメージを持つ人が少なくありません。過去の経験やメディア、インターネット上の情報などから形成された固定観念が、求職者の応募意欲を削いでしまう一因となっています。
もちろん、近年では営業スタイルも変化し、必ずしも全ての企業が旧来型の厳しい営業活動を行っているわけではありません。しかし、こうしたネガティブなイメージが先行してしまうことで、仕事のやりがいや魅力が伝わりにくく、敬遠されてしまう傾向が見られます。企業側が実態に即した情報発信を強化し、イメージを払拭していく努力が求められます。
2.2 求められるスキルの高度化とミスマッチ
現代の法人営業は、単に製品やサービスを売り込むだけでなく、顧客の抱える課題を深く理解し、最適なソリューションを提案するコンサルティング能力が不可欠となっています。市場や競合の分析、データに基づいた戦略立案、そして顧客との長期的な関係構築など、求められるスキルはますます高度化・多様化しています。
加えて、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)、オンライン商談ツールといったデジタルツールの活用スキルも必須となりつつあります。これらの高度なスキルセットを持つ人材は限られており、育成にも時間とコストがかかります。企業が求めるスキルレベルと、求職者が持つスキルや経験との間にギャップが生じやすく、採用のミスマッチが起こりやすい状況となっています。
2.3 厳しい労働環境と待遇への不満
一部の企業においては、依然として過度な目標設定や長時間労働、休日出勤などが常態化しているケースが見られます。成果主義が行き過ぎてプロセスが評価されなかったり、評価基準が曖昧であったりすることも、従業員の不満につながります。
また、求められるスキルや業務負荷の高さに対して、給与やインセンティブといった待遇が見合っていないと感じる人もいます。特に、ワークライフバランスを重視する価値観が広がる中で、旧態依然とした労働環境や、納得感の低い待遇は、人材の獲得を困難にするだけでなく、既存社員の離職を招く原因にもなり得ます。
2.4 他業界や他職種との採用競争激化
法人営業職は、同業他社だけでなく、他業界や他職種とも人材獲得を競い合っています。特に、IT業界のエンジニアやマーケター、コンサルティング業界、あるいは専門性の高い企画職や管理部門系の職種などは、高い専門性や将来性を背景に人気を集めています。
また、柔軟な働き方や魅力的な企業文化を打ち出すスタートアップ企業や、高い給与水準を提示する外資系企業なども強力な競合となります。求職者、特に優秀な人材ほど選択肢が多いため、企業は自社の法人営業職ならではの魅力や働くメリットを明確に打ち出し、差別化を図っていく必要があります。そうでなければ、厳しい採用競争の中で埋もれてしまう可能性が高いのです。
3. 見過ごせない 法人営業の人材不足が引き起こす経営リスク
法人営業部門の人材不足は、単なる現場レベルの問題にとどまらず、企業の経営基盤そのものを揺るがしかねない深刻なリスクを内包しています。人手不足の状態を放置することで、具体的にどのような経営リスクが顕在化するのでしょうか。ここでは、見過ごすことのできない主なリスクについて詳しく解説します。
3.1 売上減少と事業成長の停滞
法人営業の人材が不足すると、まず直接的な影響として現れるのが売上の減少です。十分な数の営業担当者がいなければ、既存顧客へのフォローアップが手薄になり、アップセルやクロスセルの機会を逃してしまいます。また、新規顧客開拓に割けるリソースも限られ、新たな収益源の確保が困難になります。
結果として、売上目標の未達が常態化し、計画していた事業成長が実現できなくなる可能性が高まります。特に、競合他社が積極的な営業活動を展開している場合、市場シェアを奪われ、成長どころか現状維持すら難しくなるケースも考えられます。
3.2 顧客満足度の低下と既存顧客の流出
営業担当者一人ひとりの負担が増加すると、顧客への対応品質が低下しがちです。問い合わせへのレスポンスが遅れたり、提案内容が浅くなったり、あるいは担当者が頻繁に変わることで、顧客は不安や不満を感じるようになります。
法人営業においては、顧客との長期的な信頼関係構築が不可欠ですが、人材不足はそれを阻害する大きな要因となります。顧客満足度が低下すれば、当然ながら解約や取引の縮小につながり、苦労して獲得した既存顧客を失うことになりかねません。これは、LTV(顧客生涯価値)の観点からも大きな損失と言えるでしょう。
3.3 現場社員の疲弊と離職率の悪化
限られた人員で目標達成を目指すことは、現場の営業社員に過度の負担を強いることになります。一人あたりの担当顧客数や業務量が増え、残業時間の増加や休日出勤が常態化しやすくなります。また、十分なOJTや研修の機会が設けられず、スキルアップの実感が得られないままプレッシャーだけが増していく状況は、社員のモチベーションを著しく低下させます。
心身の不調を訴える社員が増え、最終的には離職を選択するケースも増加するでしょう。特に、優秀な営業担当者ほど、より良い労働条件を求めて転職しやすく、結果として更なる人材不足とノウハウの流出を招くという悪循環に陥る危険性があります。
3.4 新規開拓やイノベーション機会の損失
日々の業務に追われる営業担当者は、どうしても既存顧客の対応や目前の案件処理に時間を取られがちです。人材が不足している状況では、将来の成長に不可欠な新規市場の開拓や、新たな顧客層へのアプローチといった活動に十分なリソースを割くことができません。
また、顧客との対話の中から得られるニーズや課題といった貴重な情報を収集・分析し、それを新商品開発やサービス改善に活かすといった、イノベーションにつながる活動も停滞しやすくなります。市場の変化に迅速に対応できず、新たなビジネスチャンスを逃してしまうことは、企業の将来にとって大きな痛手となります。
3.5 中長期的な企業競争力の低下
これまで述べてきた売上減少、顧客流出、社員の疲弊、新規開拓の停滞といったリスクは、それぞれが独立しているわけではなく、相互に関連し合っています。これらの問題が複合的に発生し、長期化することで、企業のブランドイメージは悪化し、財務状況も厳しくなっていきます。
そうなると、新たな人材の採用はさらに困難になり、設備投資や研究開発への投資余力も低下します。結果として、競合他社に対する優位性を失い、市場におけるプレゼンスが低下するなど、中長期的な視点での企業競争力そのものが著しく損なわれるリスクがあります。最悪の場合、事業継続が困難になる可能性も否定できません。
4. 法人営業の人材不足を解消するために企業が取るべき対策
深刻化する法人営業の人材不足は、放置すれば企業の成長を阻害する重大な経営リスクにつながります。しかし、適切な対策を講じることで、この課題を乗り越え、むしろ競争優位性を築くことも可能です。ここでは、企業が取るべき具体的な対策を多角的に解説します。
4.1 採用戦略の抜本的な見直し
人材不足の解消には、まず入り口となる採用戦略の見直しが不可欠です。従来のやり方にとらわれず、より効果的なアプローチを検討する必要があります。
4.1.1 ターゲット人材の再定義と魅力的な情報発信
これまでの経験者採用一辺倒から脱却し、ポテンシャルを秘めた若手層や、異業種で培われたスキルを持つ人材にも目を向けることが重要です。ターゲットとする人材像(ペルソナ)を具体的に設定し、そのペルソナに響くような自社の魅力、例えば仕事のやりがい、成長機会、独自の企業文化、社会貢献性などを明確に打ち出す必要があります。
採用サイトやパンフレットはもちろん、社員インタビュー記事やブログ、SNSなどを活用し、リアルな情報を継続的に発信することで、企業の認知度向上とブランディング強化を図りましょう。特に、現場で活躍する営業社員の声は、候補者にとって強い訴求力を持ちます。
4.1.2 多様な採用チャネルの活用(リファラル ダイレクトリクルーティング)
従来の求人広告媒体だけに頼るのではなく、より多様な採用チャネルを積極的に活用することが求められます。社員紹介制度(リファラル採用)は、企業文化にマッチした人材を獲得しやすく、定着率も高い傾向にあるため、報奨金制度などを設けて活性化を図る価値があります。また、企業側から直接候補者にアプローチするダイレクトリクルーティングも有効な手段です。
LinkedInなどのビジネスSNSやダイレクトリクルーティングサービスを活用し、求めるスキルや経験を持つ人材へ積極的にコンタクトを取りましょう。加えて、人材紹介エージェントとの連携を強化し、自社の求める人物像や魅力を正確に伝え、ミスマッチを防ぐことも重要です。
4.1.3 採用プロセスの効率化と候補者体験の向上
選考プロセスが冗長であったり、対応が遅かったりすると、優秀な候補者を逃してしまう可能性があります。ATS(採用管理システム)を導入して応募者情報を一元管理し、選考状況を可視化することで、プロセス全体の効率化を図りましょう。オンライン面接を積極的に取り入れ、地理的な制約をなくし、迅速な選考を実現することも有効です。
また、選考結果の連絡を迅速に行い、不採用の場合でも丁寧なフィードバックを心がけるなど、候補者一人ひとりに寄り添った対応(候補者体験、Candidate Experience)を重視することで、企業の評判を高め、将来的な応募につながる可能性もあります。
4.2 効果的な育成プログラムの構築と実践
採用した人材を早期に戦力化し、長期的に活躍してもらうためには、体系的で効果的な育成プログラムが不可欠です。個々のレベルや特性に合わせた育成を心がける必要があります。
4.2.1 新人営業向け研修とOJTの最適化
新卒や営業未経験者に対しては、まずビジネスマナーや業界知識、商品知識といった基礎を座学でしっかりと教えることが重要です。しかし、それだけでは実践的なスキルは身につきません。ロールプレイング研修を取り入れて商談の疑似体験を積ませたり、経験豊富な先輩社員に同行して実際の営業現場を学んだりするOJT(On-the-Job Training)を組み合わせることが効果的です。
OJTにおいては、単に同行させるだけでなく、明確な目標設定と定期的なフィードバックを行い、成長を促すことが重要です。また、新人が気軽に相談できるメンター制度を導入することも、早期の立ち上がりと定着を支援します。
4.2.2 中堅営業のスキルアップとナレッジ共有促進
一定の経験を積んだ中堅営業に対しては、より高度なスキルアップを支援するプログラムが必要です。例えば、複雑な顧客課題に対するソリューション提案能力、大型案件をまとめるための交渉力、プレゼンテーション能力などを強化する研修を提供します。
また、個々の営業担当者が持つ成功体験や失敗体験、ノウハウといった暗黙知を形式知化し、組織全体で共有する仕組み作りも重要です。定期的な勉強会や事例共有会を開催したり、ナレッジマネジメントツールを導入したりすることで、組織全体の営業力底上げを図りましょう。
4.2.3 マネジメント層の育成力強化
部下である営業担当者の育成は、マネージャーの重要な役割の一つです。しかし、プレイヤーとしては優秀でも、育成スキルが十分でないマネージャーも少なくありません。マネージャー自身が、部下の能力を引き出すためのコーチングスキル、効果的な目標設定と進捗管理の方法、適切なフィードバックの技術などを学ぶ機会を提供する必要があります。
定期的な1on1ミーティングの質を高め、部下のキャリアプランにも向き合い、成長を支援するマインドを醸成することが、チーム全体のパフォーマンス向上と人材定着につながります。
4.3 従業員の定着率を高める環境整備
せっかく採用・育成した人材が流出してしまっては、人材不足問題は解決しません。従業員が安心して長く働ける環境を整備し、定着率を高めることが極めて重要です。
4.3.1 公正な評価制度と適切な報酬体系の構築
従業員のモチベーションを維持し、定着を促すためには、公正で透明性の高い評価制度が不可欠です。売上目標の達成度といった定量的な成果だけでなく、顧客との関係構築、チームへの貢献、後輩指導といった定性的な側面も評価に組み込むことが望ましいでしょう。
評価基準を明確にし、評価プロセスを公開することで、従業員の納得感を高めることができます。また、評価結果に基づいた適切な報酬体系(給与、賞与、インセンティブ)を構築することも重要です。同業他社の給与水準や市場動向を考慮し、競争力のある待遇を提供することで、優秀な人材の流出を防ぎます。
4.3.2 働きがいを高める福利厚生とキャリア支援
給与や評価だけでなく、働きがいを感じられる環境を提供することも重要です。従業員の多様なニーズに応える福利厚生制度、例えば住宅手当、家族手当、育児・介護支援制度、自己啓発支援(資格取得補助、外部研修参加費補助など)などを充実させることが考えられます。
また、従業員が自身のキャリアパスを描き、成長を実感できるような支援も有効です。社内公募制度やジョブローテーション制度を導入したり、上司との定期的なキャリア面談を実施したりすることで、従業員の長期的なキャリア形成をサポートします。健康経営を推進し、心身ともに健康で働ける環境を整えることも、エンゲージメント向上に寄与します。
4.3.3 エンゲージメント向上に向けた社内コミュニケーション活性化
従業員エンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)を高めるためには、良好な社内コミュニケーションが欠かせません。経営層からのビジョン共有や情報発信を積極的に行い、会社の方向性への理解と共感を促しましょう。部署内だけでなく、部署間の交流を促進するイベントやプロジェクトを実施することも有効です。
また、上司と部下が気軽に話せる風通しの良い雰囲気作りや、心理的安全性が確保された職場環境を構築することが重要です。社内報、イントラネット、ビジネスチャットツール(例: Slack, Microsoft Teams)などを活用し、情報共有やコミュニケーションの活性化を図りましょう。
4.4 テクノロジー活用による業務効率化
限られた人材で成果を最大化するためには、テクノロジーを活用して営業活動の効率化・生産性向上を図ることが不可欠です。これにより、営業担当者はより付加価値の高いコア業務に集中できるようになります。
4.4.1 SFAやCRMなど営業支援ツールの導入効果
SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)は、法人営業の効率化に大きく貢献します。これらのツールを導入することで、顧客情報、商談履歴、案件進捗などを一元管理し、組織全体で共有することが可能になります。これにより、属人化しがちな営業活動を標準化し、担当者変更時の引き継ぎもスムーズに行えます。
また、蓄積されたデータを分析することで、営業活動のボトルネックを発見したり、効果的なアプローチを特定したりするなど、データに基づいた戦略的な営業活動が可能になります。Salesforce、HubSpot CRM、Sansanなど、様々なツールが存在するため、自社の課題や規模に合ったものを選定し、導入後の定着支援にも力を入れることが重要です。
4.4.2 営業プロセスのデジタル化(DX)推進
SFA/CRM導入にとどまらず、営業プロセス全体のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション、DX)を推進することも重要です。例えば、Web会議システム(例: Zoom, Google Meet, Microsoft Teams)を活用したオンライン商談は、移動時間やコストを削減し、より多くの顧客と接点を持つことを可能にします。電子契約サービスを導入すれば、契約締結までのリードタイムを短縮し、ペーパーレス化にも貢献します。名刺管理アプリを活用すれば、効率的な人脈管理が実現できます。これらのデジタルツールを積極的に導入・活用し、営業活動全体の生産性を向上させましょう。
4.4.3 ノンコア業務のアウトソーシング検討
営業担当者が本来注力すべきコア業務(顧客との関係構築、提案活動、クロージングなど)に集中できる環境を作るために、ノンコア業務を外部に委託(アウトソーシング)することも有効な選択肢です。例えば、新規顧客へのアポイント獲得(テレアポ)、提案資料の作成補助、見積書作成、データ入力作業などを専門のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業に委託することが考えられます。
これにより、営業担当者の負担を軽減し、より戦略的で付加価値の高い活動に時間を割くことができるようになります。委託先の選定にあたっては、セキュリティ体制や品質、コストなどを慎重に比較検討する必要があります。
4.5 新しい営業スタイルへの変革
市場環境や顧客の購買行動の変化に対応し、人材不足を補うためには、従来の営業スタイルを見直し、新しいアプローチを取り入れることも重要です。
4.5.1 インサイドセールス部門の強化と連携
内勤で電話やメール、Web会議システムなどを活用して見込み客の発掘・育成(リードナーチャリング)や、既存顧客へのフォローアップを行うインサイドセールスは、効率的な営業活動を実現する上で重要な役割を担います。
特に、MA(マーケティングオートメーション)ツールと連携し、Webサイトからの問い合わせや資料請求のあった見込み客に対して、適切なタイミングで情報提供やアプローチを行うことで、商談化率を高めることができます。フィールドセールス(外勤営業)との役割分担を明確にし、情報共有を密に行い、スムーズな連携体制を構築することが成功の鍵となります。
4.5.2 データドリブンな営業活動の実践
従来の勘や経験に頼った営業活動から脱却し、データに基づいて意思決定を行う「データドリブン」な営業スタイルへの変革が求められています。CRM/SFAに蓄積された顧客データ、商談データ、市場データなどを分析し、受注確度の高い見込み客を特定したり、効果的なアプローチ方法を見つけ出したりします。
KPI(重要業績評価指標)を明確に設定し、活動実績を定期的に測定・分析することで、戦略の有効性を評価し、改善を繰り返していくことが重要です。データ分析ツールやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用することも有効です。
4.5.3 柔軟な働き方の導入(リモートワーク フレックス)
優秀な人材を確保し、定着率を高めるためには、多様な働き方に対応できる環境整備も重要になります。リモートワーク(テレワーク)やフレックスタイム制度を導入することで、通勤時間の削減や育児・介護との両立支援につながり、従業員の満足度向上に貢献します。特に営業職は、顧客訪問がない日は自宅やサテライトオフィスで働くなど、柔軟な働き方を取り入れやすい職種と言えます。直行直帰を推奨することも、移動時間の無駄を省き、生産性向上につながります。
ただし、リモートワーク環境下でのコミュニケーション不足やマネジメントの課題が生じないよう、ビジネスチャットツールやWeb会議システムを効果的に活用し、定期的なオンラインミーティングを実施するなど、適切な運用ルールを整備することが不可欠です。
5. 法人営業の人材不足克服に成功した企業事例紹介
深刻化する法人営業の人材不足という課題に対し、具体的な対策を講じ、実際に成果を上げている企業が存在します。ここでは、採用、育成、そして働き方の改革を通じて、人材不足の克服に成功した企業の事例を3つご紹介します。これらの事例は、同様の課題を抱える多くの企業にとって、有効な打ち手を見つけるためのヒントとなるでしょう。
5.1 事例1 採用ブランディングで応募者数を大幅増
中堅のITサービス企業であるA社は、法人営業職の採用において、企業の知名度の低さと、営業職に対する世間一般のネガティブなイメージから、十分な数の応募者を集められないという課題を抱えていました。特に、自社が求めるスキルや意欲を持った優秀な人材の獲得に苦戦していました。
そこでA社は、まず自社の法人営業職の「本当の魅力」を再定義することから始めました。顧客のDX推進を支援するという社会貢献性の高さ、若手にも大きな裁量が与えられる環境、充実した研修制度と明確なキャリアパスなどを具体的に洗い出し、言語化しました。次に、これらの魅力をターゲットとする人材層(IT業界への関心が高い第二新卒や、成長意欲のある若手営業経験者など)に響く形で伝えるための情報発信戦略を策定しました。
具体的には、採用サイトを全面的にリニューアルし、社員インタビュー記事や動画コンテンツを多数掲載。現場で活躍する営業担当者のリアルな声を通じて、仕事のやりがいや困難を乗り越えた経験、チームの雰囲気などを伝えました。また、ターゲット層が多く利用するビジネス系SNSでの情報発信や、オンライン会社説明会でのインタラクティブな質疑応答なども積極的に行いました。さらに、社員紹介(リファラル)採用制度を強化し、インセンティブを見直すとともに、社員が知人を紹介しやすいような仕組みを整えました。ダイレクトリクルーティングも活用し、求める経験やスキルを持つ候補者へ直接アプローチする機会も増やしました。
これらの採用ブランディング活動と採用チャネルの多様化の結果、A社の法人営業職への応募者数は前年比で3倍以上に増加。特に、ターゲットとしていた優秀な若手人材からの応募が顕著に増え、採用の質も大幅に向上しました。選考プロセスにおいても、迅速なレスポンスや丁寧なフィードバックを心がけ、候補者体験(Candidate Experience)の向上に努めたことも、内定承諾率の上昇に繋がりました。
5.2 事例2 育成体系見直しで若手営業の早期戦力化を実現
老舗の専門商社であるB社では、新卒で採用した法人営業担当者がなかなか一人前になれず、早期に成果を出せないことが課題となっていました。従来のOJT(On-the-Job Training)は指導担当者の経験や勘に頼る部分が多く、育成の質にばらつきが生じていました。また、中堅営業担当者のスキルアップも頭打ちになる傾向があり、組織全体の営業力強化が急務でした。
B社は、この状況を打開するため、法人営業の育成体系を抜本的に見直すことを決断しました。まず、新人営業担当者向けの研修プログラムを再構築。商品知識や業界知識を学ぶ座学研修に加え、ロールプレイング研修を大幅に拡充し、実践的な商談スキルを習得する機会を増やしました。OJTについても、指導項目や評価基準を明確化したマニュアルを作成し、指導担当者向けの研修を実施することで、属人化を防ぎ、質の標準化を図りました。配属後も、定期的なフォローアップ研修や上司・先輩によるメンター制度を導入し、新人が安心して業務に取り組める環境を整備しました。
中堅営業担当者に対しては、個々のスキルレベルや課題に応じた育成プランを作成。社内のトップセールスが講師となる勉強会や、外部の専門家を招いたセミナーなどを定期的に開催し、提案力や交渉力、課題解決能力といった高度な営業スキルの向上を支援しました。さらに、成功事例やノウハウを共有するためのナレッジマネジメントシステムを導入。営業担当者同士が互いに学び合い、組織全体の知識レベルを引き上げる仕組みを構築しました。マネジメント層に対しても、部下の能力を引き出すためのコーチング研修を実施し、育成力を強化しました。
これらの取り組みにより、B社では新人営業担当者の立ち上がり期間が大幅に短縮され、入社1年目から安定した成果を出す人材が増加しました。中堅営業担当者のスキルも底上げされ、営業部門全体の生産性が向上。育成体制が整備されたことで、教える側の負担も軽減され、組織全体の活性化にも繋がっています。
5.3 事例3 DX推進と働き方改革で生産性向上と離職率低下
人材サービス業を展開するC社は、法人営業担当者の業務負荷の高さと、それに伴う離職率の高さに悩んでいました。顧客訪問や移動、報告書作成といった非効率な業務が多く、長時間労働が常態化。これが社員のエンゲージメント低下を招き、人材が定着しない大きな要因となっていました。
C社は、この問題を解決するために、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と働き方改革を断行しました。まず、SFA(営業支援システム)とCRM(顧客関係管理システム)を導入し、顧客情報、商談履歴、案件進捗などを一元管理。これにより、営業担当者間の情報共有がスムーズになり、報告業務の負担が大幅に軽減されました。また、オンライン商談ツールを積極的に活用し、移動時間を削減。遠方の顧客とも効率的にコミュニケーションを取れる体制を構築しました。契約手続きも電子化し、ペーパーレス化を進めました。
さらに、営業活動におけるノンコア業務(アポイント調整、資料作成の一部など)を特定し、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による自動化や、営業アシスタント部門への集約、一部業務のアウトソーシングなどを実施。これにより、営業担当者が顧客との関係構築や提案活動といったコア業務に集中できる環境を整えました。
働き方改革としては、リモートワークとフレックスタイム制度を導入。営業担当者が自身の裁量で働く場所と時間を選べるようにし、柔軟な働き方を可能にしました。勤怠管理システムを刷新し、労働時間を正確に把握するとともに、残業時間削減に向けた目標設定と進捗管理を徹底しました。社内コミュニケーションツールを活用し、リモート環境下でも円滑な情報連携や相談ができる体制も整備しました。
これらのDX推進と働き方改革の結果、C社の法人営業部門では、一人あたりの生産性が大幅に向上しました。残業時間も著しく削減され、ワークライフバランスが改善。その結果、従業員満足度が向上し、課題であった離職率も大幅に低下しました。柔軟な働き方が可能になったことで、育児や介護と両立しながら活躍する社員も増え、多様な人材が定着・活躍する組織へと変貌を遂げています。
6. まとめ
法人営業における人材不足は、労働人口の減少や営業職への根強いイメージ、求められるスキルの変化といった複数の要因が絡み合い、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。
この状況を放置すれば、売上減少や顧客離反、ひいては企業競争力の低下といった深刻な経営リスクに繋がりかねません。本記事で解説したように、採用戦略の抜本的な見直しから、育成体制の強化、従業員エンゲージメントの向上、テクノロジー活用による効率化、そして新しい営業スタイルへの変革まで、企業が取るべき対策は多岐にわたります。
これらの対策を早期に検討・実行することが、人材不足を克服し、持続的な成長を実現するための鍵となるでしょう。