営業組織の属人化や生産性の低さといった課題を抱えていませんか。現代の市場で成果を出すには、役割の分業とデータに基づいた組織的な連携が不可欠です。

本記事では、インサイドセールスからカスタマーサクセスまで、分業型営業組織における各役割を徹底解説します。The Modelを参考にした組織の最適化手法から、データドリブンで強い営業組織を構築するための具体的な方法がわかります。

1. 営業組織の役割とは 従来型と現代型の違い

市場環境が目まぐるしく変化する現代において、企業の成長を牽引する営業組織のあり方も大きな変革期を迎えています。かつては個々の営業担当者の能力に依存していた営業活動も、現在では組織全体で科学的に成果を追求するスタイルへとシフトしつつあります。

この変化の背景には、顧客の購買行動の多様化やテクノロジーの進化があります。本章では、まず従来の営業組織が直面してきた課題を整理し、現代のBtoBビジネスにおいて営業組織に求められる新たな役割について解説します。

1.1 従来の営業組織が抱える一般的な課題

多くの企業で長らく採用されてきた従来型の営業組織は、一人の営業担当者が新規顧客の開拓から商談、契約後のフォローまでを一気通貫で担当するスタイルが主流でした。このモデルは個人の裁量が大きく、エース営業マンが大きな成果を上げる一方で、組織全体として見るといくつかの根深い課題を抱えています。

第一に、「営業活動の属人化」です。個々の営業担当者のスキルや経験に依存するため、成果に大きなばらつきが生まれます。トップ営業マンが持つノウハウは暗黙知となりやすく、組織内で共有・継承されにくいため、退職や異動が組織全体の売上低下に直結するリスクを常に抱えていました。結果として、営業プロセスがブラックボックス化し、組織としての再現性ある成長が困難になります。

第二に、「生産性の低さ」が挙げられます。営業担当者は、本来最も注力すべき商談や提案活動以外にも、アポイント獲得のための電話、資料作成、移動、既存顧客への細かなフォローといった多岐にわたる業務をこなさなければなりません。これによりコア業務に割ける時間が圧迫され、一人ひとりの生産性が上がりにくい構造的な問題を抱えていました。

そして第三に、「機会損失の発生」です。一人の営業担当者が抱えられる案件数には物理的な限界があります。そのため、有望な見込み客であってもタイミングが合わずにアプローチが遅れたり、既存顧客のフォローが手薄になったりすることで、本来得られたはずの受注や追加契約を逃してしまうケースが少なくありませんでした。

1.2 現代のBtoBビジネスで求められる営業組織の役割

インターネットの普及により、顧客は営業担当者と接触する前に自ら情報を収集し、製品やサービスを比較検討することが当たり前になりました。このような顧客の購買行動の変化に対応するため、現代の営業組織には従来とは異なる役割が求められています。

最も重要な変化は、「科学的アプローチに基づく分業体制への移行」です。マーケティングが見込み客を獲得し、インサイドセールスがその見込み客を育成して商談化し、フィールドセールスがクロージングに専念、そしてカスタマーサクセスが契約後の顧客を成功に導き、長期的な関係を構築する。このように各プロセスを専門部隊が担当することで、属人化を防ぎ、組織全体の生産性を最大化することが可能になります。これは、個人の勘や経験に頼るのではなく、データに基づいて戦略的に営業活動を行う「データドリブン」な組織への変革を意味します。

また、「売って終わり」から「顧客の成功を支援し続ける」ことへの役割の変化も不可欠です。特にSaaSビジネスをはじめとするサブスクリプションモデルが主流となる中で、いかに顧客にサービスを継続利用してもらうか、つまり解約率を下げ、顧客生涯価値(LTV)を高めるかが事業成長の鍵を握ります。そのため、契約後の顧客を能動的に支援し、製品・サービスの活用を促進して事業成果に貢献するカスタマーサクセスの役割が、現代の営業組織において極めて重要視されています。

これらの変化に対応し、組織全体で効率的かつ戦略的に顧客へ価値を提供し続けることこそが、現代のBtoBビジネスで勝ち抜くために営業組織に課せられたミッションと言えるでしょう。

2. 分業型営業組織の主要な役割を徹底解剖

現代のBtoBビジネス、特にSaaS業界を中心に主流となっているのが、営業プロセスを分割し、各部門が専門特化して連携する「分業型営業組織」です。このモデルは、株式会社セールスフォース・ジャパンが提唱した「The Model(ザ・モデル)」を参考に構築されることが多く、顧客の購買プロセスの各段階に対応した専門部隊を配置することで、組織全体の生産性と成果の最大化を目指します。

ここでは、分業型営業組織を構成する主要な4つの役割について、その具体的な業務内容やミッションを詳しく解説します。

2.1 インサイドセールスの役割 見込み客の育成

インサイドセールスは、電話やメール、Web会議システムといった非対面のコミュニケーションツールを駆使して、見込み客(リード)との関係構築や育成(ナーチャリング)を担う部門です。マーケティング部門が獲得したリードを引き継ぎ、フィールドセールスが担当する質の高い商談機会を創出するという、両者の「架け橋」となる極めて重要な役割を担います。

単なるアポイント獲得部隊ではなく、顧客の課題を深くヒアリングし、適切な情報提供を通じて購買意欲を高めていくことがミッションです。主なKPIには、有効商談化数やアポイント獲得数が設定されます。

2.1.1 SDRとBDRの役割の違い

インサイドセールスは、そのアプローチ手法によって主に「SDR」と「BDR」の2種類に分けられます。両者はターゲットとするリードや営業スタイルが異なり、企業戦略に応じて使い分けられます。

SDR(Sales Development Representative)は、Webサイトからの問い合わせや資料請求、セミナー参加者といった、自社に興味を示してくれたインバウンドリードに対応する反響型の営業スタイルです。既に一定の興味関心があるため、スピーディーな対応で機会損失を防ぎ、リードの質を見極めて商談化へと繋げることが求められます。

一方、BDR(Business Development Representative)は、自社が戦略的にターゲットと定めた企業に対し、能動的にアプローチをかける新規開拓型の営業スタイルです。特にアカウントベースドマーケティング(ABM)戦略において重要視され、エンタープライズ企業など、攻略難易度の高い特定企業へのアプローチを担当します。電話やメールだけでなく、手紙やSNSなども活用し、まだニーズが顕在化していない潜在層の課題を掘り起こし、商談を創出することがミッションです。

2.2 フィールドセールスの役割 対面での提案と受注

フィールドセールスは、インサイドセールスが創出した商談機会を引き継ぎ、顧客と直接対話(訪問またはオンライン)を通じて提案活動を行い、契約締結(クロージング)までを担う役割です。いわゆる「外勤営業」であり、従来の営業担当者のイメージに最も近い存在と言えるでしょう。ただし、分業体制におけるフィールドセールスには、単に製品を売り込むのではなく、顧客のビジネス課題を深く理解し、最適なソリューションを提案する高度なコンサルティング能力が求められます。

商談の質を最大限に高めるため、インサイドセールスから共有された情報を基に仮説を立て、顧客との対話に臨むことが成功の鍵となります。主なKPIには、受注数や受注金額、受注率(成約率)などが設定されます。

2.3 カスタマーサクセスの役割 顧客の成功体験の実現

カスタマーサクセスは、製品やサービスを契約した後の顧客に対し、その導入から活用、定着までを能動的に支援し、顧客がビジネス上の「成功」を実感できるよう伴走する役割です。従来の受け身のサポートとは一線を画し、顧客のビジネスゴール達成を自社のゴールと捉え、プロアクティブに働きかけます。サブスクリプションモデルが主流の現代において、顧客に継続的にサービスを利用してもらうことは事業成長の生命線です。

そのため、解約(チャーン)を防ぎ、顧客生涯価値(LTV)を最大化させることがカスタマーサクセスの重要なミッションとなります。具体的な業務としては、オンボーディング支援、活用状況のモニタリング、定期的なフォローアップ、アップセルやクロスセルの提案などが挙げられます。主なKPIには、LTVや解約率(チャーンレート)、アップセル・クロスセル率などが用いられます。

2.4 セールスオペレーション(営業企画)の役割 組織の土台作り

セールスオペレーションは、営業組織全体の生産性向上を目的として、営業活動の基盤を整備・強化する役割を担います。日本では「営業企画」や「営業推進」といった部署が近い役割を担うことが多いです。営業担当者が顧客への価値提供という本来の業務に集中できる環境を整える、いわば営業組織の司令塔であり、縁の下の力持ちです。

具体的な業務は、営業戦略の立案、KPIの設計と予実管理、SFA/CRMといった営業支援ツールの導入・定着支援、営業プロセスの標準化、データ分析に基づく営業戦術の改善提案、営業担当者向けのトレーニング企画など多岐にわたります。データドリブンな意思決定を組織に根付かせ、属人化しがちな営業活動を仕組み化することで、組織全体の営業力を底上げする上で不可欠な存在です。

3. 営業組織の最適化で目指すべきゴール

営業組織の最適化を進めるにあたり、単に売上を伸ばすことだけを目標に据えるのは十分ではありません。市場環境が目まぐるしく変化する現代において、持続的に成長し続ける強固な組織を構築するためには、より明確で戦略的なゴール設定が不可欠です。ここでは、営業組織の最適化によって目指すべき3つの重要なゴールについて詳しく解説します。

3.1 営業プロセスの標準化と生産性の向上

営業組織が抱える根深い課題の一つに「属人化」があります。トップセールスの個人的なスキルや経験に依存した組織は、その担当者が異動や退職をした途端に業績が大きく落ち込むリスクを常に抱えています。この課題を解決し、組織全体のパフォーマンスを底上げするために不可欠なのが、営業プロセスの標準化です。具体的には、初回アプローチからヒアリング、提案、クロージングに至るまでの一連の流れを可視化し、誰が担当しても一定水準以上の成果を出せる「型」を構築します。

プロセスが標準化されることで、個々の営業担当者のスキルやノウハウが組織の資産として蓄積され、新人教育の効率化や早期戦力化にも繋がります。結果として、無駄な業務が削減され、商談や顧客との対話といったコア業務に集中できる時間が増加し、組織全体の生産性向上を実現できるのです。

3.2 データドリブンな営業戦略の立案と実行

従来の営業活動は、担当者の勘や経験といった定性的な情報に頼る場面が多く見られました。しかし、顧客の購買行動が複雑化する現代においては、客観的なデータに基づいた科学的なアプローチ、すなわち「データドリブンな営業」への転換が求められています。SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)といったツールに蓄積された顧客情報、商談履歴、活動データなどを分析することで、より精度の高い戦略を立案・実行することが可能になります。

例えば、過去の受注案件を分析して成約率の高い顧客層を特定し、そこにリソースを集中投下する、あるいは失注要因をデータから分析し、営業トークや提案内容を改善するといった施策が考えられます。このように、データという客観的な事実に基づいて意思決定を行うことで、営業活動の再現性を高め、より確実な成果へと繋げることができます。

3.3 顧客生涯価値(LTV)の最大化

市場の成熟化に伴い、新規顧客の獲得コストは年々上昇する傾向にあります。このような状況下で企業が持続的に成長するためには、新規顧客の獲得と同時に、既存顧客との関係を維持・強化し、長期的な収益を確保することが極めて重要です。そこで注目されるのが「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」という指標です。

LTVの最大化とは、「売って終わり」の関係から脱却し、顧客のビジネス成功を支援し続けることで、アップセルやクロスセルに繋げ、長期的なパートナーシップを築くことを意味します。このゴールを達成するためには、営業部門だけでなく、導入後のフォローを行うカスタマーサクセス部門との緊密な連携が不可欠です。組織全体で顧客の成功にコミットする体制を構築することで、顧客満足度が向上し、解約率の低下と安定的な収益基盤の確立が実現します。

4. 営業組織の最適化を実現する具体的な手法

営業組織が目指すべきゴールを達成するためには、戦略に基づいた具体的な手法を組織に導入し、実践していく必要があります。現代の営業組織を成功に導くためには、単一の施策に頼るのではなく、「組織体制」「目標管理」「ITツール」「人材育成」といった複数の側面からアプローチすることが不可欠です。

ここでは、営業組織の最適化を実現するための代表的な4つの手法を具体的に解説します。

4.1 The Modelを参考にした組織体制の構築

現代の営業組織を構築する上で、非常に効果的なフレームワークの一つが「The Model(ザ・モデル)」です。これは、株式会社セールスフォース・ジャパンが提唱し、多くのBtoB企業で導入されている営業プロセスモデルです。The Modelの最大の特徴は、マーケティングから受注後の顧客サポートまでの一連のプロセスを機能ごとに分業し、各部門が連携して顧客に対応する点にあります。

具体的には、顧客のフェーズに応じて「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つの部門に役割を分割します。見込み客の獲得から育成、商談・受注、そして契約後の顧客の成功支援までを、それぞれの専門部隊が担当することで、各部門の専門性が高まり、プロセス全体の効率が向上します。これにより、営業担当者が新規開拓から既存顧客のフォローまで全てを担うことで生じていた属人化や非効率性を解消し、スケーラブルな組織体制を構築することが可能になります。

ただし、The Modelを成功させるためには、単に組織を分けるだけでは不十分です。各部門間で顧客情報や案件の進捗状況をスムーズに連携させるための情報共有基盤(後述するSFA/CRMなど)の整備と、部門間のKPIを連携させ、組織全体の目標達成に向けて一丸となる文化の醸成が成功の鍵を握ります。

4.2 KPIマネジメントによるパフォーマンスの可視化

営業組織のパフォーマンスを最大化するためには、勘や経験に頼った属人的なマネジメントから脱却し、データに基づいた科学的なアプローチへ移行する必要があります。その中核を担うのがKPI(重要業績評価指標)マネジメントです。

まずは、最終的なゴールであるKGI(重要目標達成指標)、例えば「年間売上高」や「新規契約件数」を設定します。次に、そのKGIを達成するための中間指標として、各営業プロセスの活動量や質を示すKPIを設定します。例えば、インサイドセールスであれば「有効リード数」「架電数」「アポイント獲得率」、フィールドセールスであれば「商談化数」「受注率」「平均受注単価」などがKPIの代表例です。

これらのKPIを部門や個人単位で設定し、その進捗を定期的に観測することで、営業活動が可視化されます。目標に対してどのプロセスが順調で、どこにボトルネックが存在するのかを客観的に把握できるため、課題の早期発見と具体的な改善アクションにつながります。ダッシュボードなどを活用してKPIをリアルタイムで共有し、週次や月次のミーティングでレビューと改善策の検討を繰り返すPDCAサイクルを回すことが、継続的な組織成長の原動力となります。

4.3 SFA/CRMを活用した情報共有とパイプライン管理

分業型の営業組織やデータドリブンなKPIマネジメントを機能させる上で、土台となるのがSFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)といったITツールの活用です。これらのツールは、営業組織における情報共有を促進し、属人化を防ぐための強力な武器となります。

CRMは顧客の基本情報や過去の対応履歴などを一元管理し、SFAは商談の進捗状況や営業担当者の活動内容を記録・管理する役割を担います。これらのツールを導入することで、担当者が変わっても顧客情報を引き継ぐことができ、マーケティング部門が獲得したリード情報をインサイドセールスがスムーズに引き継ぐといった、部門間のシームレスな連携が実現します。

また、SFA/CRMを活用することで「パイプライン管理」の精度が格段に向上します。パイプライン管理とは、見込み客の発見から受注に至るまでの一連の営業プロセスを可視化し、各段階にどれくらいの案件が存在し、どのように流れているかを管理する手法です。これにより、将来の売上予測の精度を高めるだけでなく、「どのフェーズで案件が滞留しやすいか」といった営業プロセスの課題を特定し、改善策を講じることが可能になります。

4.4 セールスイネーブルメントによる人材強化

優れた組織体制やツールを導入しても、それを使いこなす「人」が成長しなければ、営業組織の成果は最大化されません。そこで重要になるのが「セールスイネーブルメント」という考え方です。セールスイネーブルメントとは、営業組織が継続的に成果を上げ続けるために、営業担当者の育成や活動支援を体系的に行う取り組み全般を指します。

具体的な活動としては、以下のようなものが挙げられます。

  • トレーニングの実施:新人向けのオンボーディング研修から、既存メンバー向けの製品知識や高度な交渉術に関するトレーニングまで、スキルレベルに応じた教育プログラムを提供します。
  • コンテンツの整備:営業資料や提案書のテンプレート、トークスクリプト、成功事例集といった営業活動に必要なコンテンツを整備し、誰もがいつでも最新の情報にアクセスできる環境を構築します。
  • コーチングの仕組み化:上司が部下の商談に同行してフィードバックを行ったり、録画したオンライン商談をレビューしたりするなど、個々の営業担当者のスキル向上を支援するコーチングを定常的に行います。

セールスイネーブルメントは、一度研修を行って終わりではなく、営業活動のデータを分析し、成果に結びつく行動やスキルを特定した上で、教育コンテンツやトレーニング内容を継続的に改善していくことが重要です。これにより、営業組織全体のパフォーマンスの底上げと標準化を実現します。

5. まとめ

顧客の購買行動が多様化する現代において、従来の属人的な営業組織では成果を出し続けることが困難になっています。ましてや、人材不足のなか人だけに頼った施策では、限界があります。

本記事で解説したように、The Modelを参考にインサイドセールスやカスタマーサクセスといった専門部隊を配置し、組織を最適化することが不可欠です。SFA/CRMを活用したデータドリブンな意思決定と、セールスイネーブルメントによる人材強化を両輪で進めることで、生産性の向上とLTV最大化が実現します。
ぜひご紹介した手法を参考に、自社の営業組織の見直しをご検討ください。