昨今の市場環境の変化により、法人営業の成果に伸び悩みを感じている企業は多いのではないでしょうか。その原因は、ターゲット顧客と提供価値が曖昧なままになっていることかもしれません。
この記事では、受注率を最大化するためのターゲット顧客と提供価値の再定義について、具体的な3ステップで解説します。分析手法から営業活動への落とし込み方まで網羅し、成果を出すための具体的な方法が分かります。
1. なぜ今法人営業でターゲット顧客と提供価値の再定義が必要なのか
国内の多くの企業が、法人営業の成果に伸び悩みを感じています。これまでと同じように営業活動を行っているにもかかわらず、アポイントの獲得数が減少したり、商談の受注率が低下したりといった課題に直面しているのではないでしょうか。
その根本的な原因は、市場や顧客の変化によって、自社が「誰に、何を売るべきか」と「提供している価値は何か」いう営業の根幹が曖昧になってきている点にあります。変化の激しい現代市場で成果を出し続けるためには、一度立ち止まり、自社のターゲット顧客と提供価値を再定義することが不可欠です。
1.1 市場の成熟と競争の激化
現代のビジネス環境は、多くの業界で市場が成熟期を迎え、製品やサービスの機能・品質だけでは差別化が非常に困難になっています。いわゆる「コモディティ化」が進み、顧客から見れば「どの会社のサービスも同じ」に見えてしまう状況が生まれています。
このような環境下で、価格競争に陥ることなく自社を選んでもらうためには、「なぜ自社から買うべきなのか」という明確な理由を提示し、顧客に理解してもらう必要があります。そのためには、自社が最も価値を提供できる顧客は誰なのかを特定し、その顧客に深く響く独自の価値を打ち出す戦略が求められるのです。
1.2 顧客の購買プロセスの変化と情報過多
インターネットやSNSの普及は、法人顧客の購買プロセスを劇的に変化させました。顧客は営業担当者と接触する前に、Webサイトや比較サイト、口コミなどを通じて自ら能動的に情報収集を行い、課題の解決策や導入するサービスの候補をある程度絞り込んでいます。営業担当者が初めて顧客と話すときには、すでに顧客は豊富な知識を持っていることも珍しくありません。
このような状況では、単なる製品説明や機能紹介といった一方的な売り込みは効果が薄く、むしろ敬遠されてしまいます。顧客が求めているのは、自社の課題を深く理解し、まだ気づいていない新たな視点や専門的な知見を提供してくれる信頼できるパートナーです。情報過多の時代だからこそ、顧客一人ひとりに最適化された価値ある情報を提供できるかどうかが、選ばれる企業とそうでない企業を分ける重要な要素となっています。
1.3 「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への転換の必要性
かつては「良いものを作れば売れる」という「プロダクトアウト」の考え方が主流でした。しかし、製品やサービスが世の中に溢れ、顧客ニーズが多様化・複雑化した現代において、この考え方では顧客が本当に抱えている課題とのズレが生じやすくなっています。今求められているのは、顧客の課題やニーズを起点として製品やサービスを開発・提供する「マーケットイン」の発想です。
このマーケットインを実践するためには、まず「自社の理想の顧客は誰か」を解像度高く定義し、その顧客が「どのような課題を持ち、何を求めているのか」を徹底的に深掘りすることが全ての出発点となります。ターゲット顧客と提供価値を再定義することは、まさにこのマーケットインへの思考転換を組織全体で実現するための第一歩なのです。
1.4 営業リソースの最適化と生産性向上
働き方改革の推進や深刻化する人手不足を背景に、営業活動における生産性向上はあらゆる企業にとって喫緊の経営課題です。限られた時間と人員の中で成果を最大化するためには、営業リソースをどこに集中させるかという戦略的な判断が欠かせません。ターゲット顧客が曖昧なまま、手当たり次第にアプローチをかけるローラー作戦のような営業手法は、非効率であるばかりか、営業担当者の疲弊を招き、モチベーションの低下にも繋がります。
自社にとって成約の可能性が高く、長期的に良好な関係を築ける優良顧客層(ICP:Ideal Customer Profile)を明確に定義し、そのターゲットにリソースを集中投下することで、無駄な活動を削減できます。結果として、商談化率や受注率が向上し、LTV(顧客生涯価値)の高い顧客基盤を構築することが可能になり、営業組織全体の生産性が飛躍的に高まるのです。
2. 成果が出ない法人営業に共通する2つの課題
多くの企業が「営業活動にリソースを割いているにもかかわらず、なかなか受注に繋がらない」「商談はするものの、いつも『検討します』で終わってしまう」といった悩みを抱えています。
その根本的な原因は、日々の活動量や個々の営業スキルだけでなく、より上流の戦略、つまり「誰に、何を売るのか」という基本設計にあることが少なくありません。ここでは、成果の出ない法人営業に共通してみられる2つの根深い課題について、具体的に解説します。
2.1 課題1 ターゲット顧客が曖昧になっている
成果に繋がらない営業活動の典型的なパターンが、アプローチすべきターゲット顧客の解像度が低い、あるいは定義自体が曖昧になっているケースです。例えば、「製造業」といった大まかな括りだけで営業リストを作成し、手当たり次第にアプローチをかけてはいないでしょうか。このような状態では、営業リソースが分散し、顧客対応の優先度が営業担当の主観で決まってしまいます。
ターゲット顧客が曖昧になる背景には、「過去の成功体験への固執」や「市場の変化への未対応」、「仕事があれば何でも良いという気持ち」があります。かつて有効だったアプローチが、現在も通用するとは限りません。市場環境や顧客のビジネスモデルが変化する中で、自社が本当に価値を提供できる顧客像も変化している可能性を常に念頭に置く必要があります。
ターゲットが曖昧なままでは、営業担当者一人ひとりのアプローチ方法もバラバラになり、組織としての営業力が向上しません。結果として、受注確度の低い見込み客に多大な時間とコストを費やし、営業活動全体の生産性を著しく低下させる原因となります。
2.2 課題2 提供価値が顧客に響いていない
もう一つの深刻な課題は、自社が提供できるはずの「価値(バリュー)」が、ターゲット顧客に正しく伝わっていない、あるいは全く響いていないという問題です。多くの営業担当者は、自社製品やサービスの「機能」や「スペック」を説明することに終始しがちです。しかし、顧客が本当に知りたいのは、「その機能を使うことで、自社のどのような課題が解決され、どのような未来が手に入るのか」という具体的なベネフィットです。
この問題は、自社の強みを客観的に分析できていないことや、競合他社との差別化ポイントを明確に言語化できていないことに起因します。例えば、「弊社の強みはサポート体制です」と伝えても、それが顧客のどのような不安を解消し、事業継続にどう貢献するのかまで踏み込んで伝えなければ、ありふれたアピールポイントの一つとして埋もれてしまいます。
顧客の表面的なニーズだけでなく、その裏にある潜在的な課題やインサイトを深く理解し、そこに自社の強みを接続して「あなたにとって、これだけの価値がある」と示せて初めて、顧客の心は動かされます。提供価値が響かなければ、商談は価格競争に陥りやすく、最終的な意思決定の場面で選ばれることは困難になるでしょう。
3. 法人営業の成果を最大化するターゲット顧客と提供価値の再定義 3ステップ
漠然とした営業活動から脱却し、受注率を飛躍的に高めるためには、戦略的なアプローチが不可欠です。ここでは、法人営業の成果を最大化させるための「ターゲット顧客」と「提供価値」の再定義を、具体的な3つのステップに分けて解説します。
このステップを踏むことで、自社が本当にアプローチすべき顧客像が明確になり、心に響くメッセージを届けられるようになります。
3.1 ステップ1 現状分析と顧客理解の深化
最初のステップは、思い込みや勘に頼るのではなく、客観的なデータと顧客の生の声に基づいて現状を正確に把握することです。まずは自社の立ち位置と顧客の実態を深く理解することから始めましょう。
3.1.1 既存顧客データの分析(3C分析・STP分析)
まず、社内に蓄積されたデータを最大限に活用します。CRMやSFAに記録されている既存顧客のデータや、営業担当が日々活動した中で得ている情報は、成功のヒントが詰まった宝の山です。特に、売上高や利益率が高い優良顧客(ロイヤルカスタマー)の属性や行動パターンを分析することが重要です。
この際、フレームワークを用いると効率的に分析を進められます。代表的なものに「3C分析」と「STP分析」があります。
3C分析
「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの視点から市場環境を分析する手法です。既存顧客データから「どのような顧客が自社を選んでいるのか」を把握し、競合他社が「どのような価値を提供し、どの顧客層に強いのか」を調査します。そして、それらを踏まえて「自社の独自の強みは何か」を客観的に見つめ直します。これにより、自社が戦うべき市場での立ち位置が明確になります。
STP分析
市場を細分化し(Segmentation)、狙うべき市場を定め(Targeting)、自社のポジションを明確にする(Positioning)分析手法です。既存顧客データを基に、業種、企業規模、地域、抱えている課題といった切り口で顧客をグループ分け(セグメンテーション)します。その中から、最も自社の強みを発揮でき、収益性が高いグループはどこかを見極め(ターゲティング)、その市場における自社の独自の立ち位置(ポジショニング)を確立します。
3.1.2 顧客へのヒアリングとインサイトの発見
データ分析だけでは見えてこない、顧客の「本音」や「深層心理(インサイト)」を探るために、直接のヒアリングが極めて重要になります。特に、長期的に取引のある優良顧客や、逆に最近失注してしまった相手へのヒアリングは、提供価値を見直す上で貴重な情報源となります。
ヒアリングでは、次のような質問を通じて、顧客の課題や意思決定のプロセスを深掘りします。
- 「なぜ、最終的に当社のサービスを選んでいただけたのでしょうか?」
- 「導入を検討する前は、どのような点に最もお困りでしたか?」
- 「当社のサービスを導入後、業務や成果にどのような変化がありましたか?」
- 「もし当社のサービスがなかったとしたら、どのような代替手段を検討されていましたか?」
これらの対話を通じて、顧客が製品の「機能」ではなく、その先にある「価値(ベネフィット)」をどのように感じているのかを理解することが目的です。顧客自身も気づいていないような潜在的なニーズや課題を発見できれば、それが強力な提供価値を再定義する鍵となります。
3.2 ステップ2 理想のターゲット顧客(ICP)の再定義
ステップ1で得られた分析結果とインサイトを基に、自社が最も価値を提供でき、かつ自社にとっても価値のある「理想の顧客像(Ideal Customer Profile = ICP)」を具体的に定義していきます。
3.2.1 顧客セグメンテーションとターゲティング
ステップ1の分析で明らかになった顧客のグループ(セグメント)の中から、どのセグメントに集中的にアプローチするかを決定します。選定の際には、以下のような観点を総合的に評価します。
- 市場の魅力度:市場規模や成長性は十分か。
- 競合の状況:競合の力が強すぎないか、自社が入り込む隙はあるか。
- 自社との適合性:自社の強みやリソースを最大限に活かせるか。
- 収益性:LTV(顧客生涯価値)が高く、安定した収益が見込めるか。
「すべての顧客」を狙うのではなく、勝てる可能性が最も高い市場にリソースを集中させることが、法人営業の成功確率を高める上で不可欠です。
3.2.2 具体的なペルソナの設定
ターゲットとする顧客セグメントを決定したら、次はそのターゲットをより具体的に、一人の人物像として描き出す「ペルソナ」を設定します。ペルソナを設定することで、営業部門やマーケティング部門のメンバー全員が、顧客に対する共通のイメージを持つことができ、施策のブレを防ぎます。
法人営業におけるペルソナでは、企業情報と担当者個人の情報を具体的に設定します。
【ペルソナの設定項目例】
- 企業情報:業種、業界での立ち位置、企業規模(従業員数・売上高)、抱えている事業課題
- 担当者情報:部署、役職、年齢層、担当業務、業務上の目標やKPI、日々の悩みや課題、情報収集の方法(Webサイト、展示会など)、意思決定における役割(起案者、決裁者など)
このように詳細なペルソナを描くことで、「この人に響くメッセージは何か」「どのようなアプローチが有効か」といった具体的な営業戦略を立てやすくなります。
3.3 ステップ3 響く提供価値(バリュープロポジション)の再定義
理想のターゲット顧客(ICP・ペルソナ)を定義したら、最後のステップとして、そのターゲットに「刺さる」提供価値、すなわちバリュープロポジションを再定義します。これは、「自社が提供できること」を一方的に伝えるのではなく、「顧客が本当に求めていること」と「自社の独自の強み」を接続させる作業です。
3.3.1 ターゲット顧客の課題と自社の強みを接続する
ステップ2で設定したペルソナが抱える「深い悩み」や「達成したい目標」を改めてリストアップします。一方で、ステップ1の3C分析で明確になった「自社の強み」や「競合にはない独自性」もリストアップします。そして、この2つを繋ぎ合わせることで、提供価値の核となるメッセージを導き出します。
例えば、「業務効率化」という漠然とした価値ではなく、「ペルソナである経理部長の〇〇さんが悩んでいる、月末の請求書処理にかかる時間を50%削減し、より重要な財務分析に時間を使えるようにする」といったように、具体的でパーソナルな価値として表現することが重要です。
3.3.2 バリュープロポジションキャンバスの活用
提供価値を構造的に整理し、言語化するためには「バリュープロポジションキャンバス」というフレームワークが非常に有効です。このキャンバスは、「顧客セグメント」と「価値提案」の2つの要素で構成されています。
- 顧客セグメント側:顧客が解決したい課題(Pains)、顧客が得たいこと(Gains)、顧客がやらなければならないこと(Customer Jobs)を書き出す。
- 価値提案側:顧客の課題を和らげるもの(Pain Relievers)、顧客に利益をもたらすもの(Gain Creators)、そしてそれらを実現する自社の製品・サービス(Products & Services)を書き出す。
このキャンバス上で、顧客の「課題」と自社の「解決策」、顧客の「得たいこと」と自社の「もたらす利益」がぴったりと合致するように整理していきます。このプロセスを通じて、「なぜ顧客は競合ではなく自社を選ぶべきなのか」という問いに対する明確な答え、すなわち強力なバリュープロポジションが完成します。
4. 再定義した内容を営業活動に落とし込む方法
緻密な分析を経てターゲット顧客(ICP)と提供価値(バリュープロポジション)を再定義しても、それが現場の営業活動に反映されなければ成果には結びつきません。いわば「絵に描いた餅」で終わらせないためには、戦略を具体的な戦術レベルにまで落とし込み、組織全体で実践していくプロセスが不可欠です。
ここでは、再定義した内容を日々の営業活動に浸透させ、確実に成果へとつなげるための具体的な方法を3つのステップで解説します。
4.1 営業資料やトークスクリプトへの反映
営業担当者一人ひとりが再定義されたターゲット顧客と提供価値を正確に理解し、一貫したメッセージを顧客に届けられるようにするためには、営業ツールへの反映が欠かせません。これにより、営業活動の属人化を防ぎ、組織全体の営業力を底上げすることが可能になります。
4.1.1 営業資料の全面的な見直し
まず、顧客との接点で最も重要なツールである営業資料を、新しいターゲットと提供価値に合わせて刷新します。単にデザインを変更するのではなく、メッセージの核から見直すことが重要です。
例えば、サービス紹介資料では、従来の機能やスペックの羅列から脱却し、「新しいターゲット顧客が抱える具体的な課題」から話を始め、「自社のサービスがその課題をどのように解決し、どのような理想の未来(ベネフィット)を提供できるのか」というストーリーで構成します。再定義した提供価値が明確に伝わるよう、顧客の成功事例や具体的なデータを用いて説得力を持たせましょう。
4.1.2 シーン別のトークスクリプト作成
次に、営業プロセスの各段階に応じたトークスクリプトを整備します。これにより、トップセールスのノウハウを形式知化し、チーム全体のパフォーマンスを安定させることができます。
アポイント獲得の架電スクリプトでは、ターゲット顧客が思わず「それは自社のことだ」と感じるような課題を投げかける言葉を盛り込みます。初回商談では、再定義したペルソナの課題やニーズを深掘りするためのヒアリング項目リストを用意し、顧客理解を深めます。そして提案のクロージング段階では、再定義した提供価値を凝縮した「キラーフレーズ」を準備し、顧客の意思決定を力強く後押しします。
4.2 マーケティング部門との連携強化
法人営業の成果を最大化するためには、営業部門単独の取り組みだけでは限界があります。見込み顧客(リード)の創出を担うマーケティング部門との緊密な連携が、一貫した顧客体験を生み出し、商談化率や受注率を飛躍的に向上させます。
4.2.1 ICPとバリュープロポジションの共有
まず最も重要なのは、営業部門とマーケティング部門が、再定義した「理想の顧客像(ICP)」と「響く提供価値(バリュープロポジション)」について共通の認識を持つことです。これを両部門の「共通言語」と位置づけ、ターゲット顧客の解像度を合わせます。その上で、「ICPからの有効商談化数」や「ICPをターゲットとしたコンテンツからのリード獲得数」といった共通のKPIを設定し、同じ目標に向かって活動することが連携の第一歩です。
4.2.2 一貫したメッセージングによるリードの質向上
共通認識が確立されれば、マーケティング活動の質も向上します。マーケティング部門は、新しいICPに的を絞ったWebサイトのコンテンツ、ブログ記事、ダウンロード資料(ホワイトペーパー)、Webセミナーなどを企画・制作します。
これにより、自社の提供価値に強く共感する質の高いリードを安定的に創出し、営業部門へ引き渡すことが可能になります。
4.2.3 フィードバックループの構築
連携を形骸化させないためには、継続的な情報交換の仕組み、すなわちフィードバックループを構築することが不可欠です。営業担当者は、日々の商談で得た「顧客の生の声」や「競合の最新動向」、「響いたセールストーク」といった貴重な情報を、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)への入力や定例会議を通じてマーケティング部門へフィードバックします。マーケティング部門は、その定性・定量データをもとに、広告のクリエイティブやWebサイトのメッセージを改善し、より精度の高い施策を展開するという好循環を生み出します。
4.3 定期的な効果測定と改善(PDCA)
市場環境や顧客のニーズは絶えず変化します。一度再定義したターゲット顧客や提供価値が、未来永劫にわたって最適であり続ける保証はありません。したがって、定義した内容が本当に正しかったのかを定期的に検証し、改善を繰り返すPDCAサイクルを回し続ける組織文化を醸成することが、持続的な成長の鍵となります。
4.3.1 KPIの設定とモニタリング
まず、再定義した戦略の成果を客観的に測るための重要業績評価指標(KPI)を設定します。例えば、「ICPからのアポイント獲得率」「ICPへの提案からの受注率」「平均商談期間の短縮率」「顧客単価(LTV)の向上率」などが考えられます。これらのKPIをダッシュボードなどで可視化し、チーム全体で常に進捗状況をモニタリングできる環境を整えましょう。
4.3.2 データに基づいた客観的な評価
次に、月次や四半期ごとといった定期的なタイミングで、設定したKPIの達成状況を評価します。SFAやCRMに蓄積されたデータを分析し、「どの施策が効果的だったのか」「どのターゲット層からの受注率が高いのか」「失注の主な原因は何か」といった事実を客観的に把握します。感覚や経験則だけに頼るのではなく、データという揺るぎない事実に基づいて評価を行うことが重要です。
4.3.3 継続的な改善アクションへの展開
評価と分析から得られたインサイトをもとに、具体的な改善アクションへとつなげます。例えば、「特定の業界をターゲットとした際の受注率が低い」という事実が判明した場合、その業界向けの提供価値の伝え方や営業資料の内容を見直すといった改善策を講じます。トークスクリプトの微調整、マーケティングコンテンツのA/Bテスト、ターゲット顧客の再セグメンテーションなど、小さな改善を迅速に繰り返し実行していくことが、大きな成果へとつながります。このPDCAサイクルこそが、変化に強い営業組織を構築する原動力となるのです。
5. ターゲット顧客と提供価値の再定義による成功事例
ここでは、実際にターゲット顧客と提供価値を再定義することで、法人営業の成果を飛躍的に向上させた企業の成功事例を2つご紹介します。自社の状況と照らし合わせながら、具体的な取り組みのヒントとしてご活用ください。
5.1 事例1 株式会社A社(SaaS業界)のケース
株式会社A社は、中小企業向けの勤怠管理SaaSを提供する企業です。以前は「中小企業全般」をターゲットとし、「業務効率化」を訴求していましたが、リードの質が低く、商談化率や受注率の伸び悩みが深刻な課題でした。多くの競合サービスとの価格競争に陥り、営業担当者の疲弊も大きな問題となっていました。
そこで同社は、本記事で解説した3ステップに沿ってターゲットと提供価値の再定義に着手。まず、既存の受注顧客データを詳細に分析したところ、特に「従業員50名から100名規模の多店舗展開を行う飲食・小売業」において、契約継続率が極めて高いという事実を発見しました。これらの顧客へヒアリングを重ねた結果、彼らが抱える「アルバイトの複雑なシフト管理」や「急な欠勤への対応」といった特有のペイン(悩み)に対し、A社のSaaSが持つ柔軟なシフト調整機能が極めて有効に機能しているというインサイトを得ました。
この分析に基づき、理想の顧客像(ICP)を「複雑なシフト管理に悩む、従業員50~100名規模の多店舗展開型 飲食・小売業の店長・エリアマネージャー」と具体的に再定義。提供価値も、曖昧な「業務効率化」から「アルバイトの急な欠勤にも即時対応できる柔軟なシフト調整機能で、店舗運営の安定化と店長の負担を大幅に軽減する」という、ターゲットに深く響くバリュープロポジションへと転換させました。
結果として、ターゲットを絞ったWeb広告やコンテンツマーケティング施策により、質の高いリードが安定的に獲得できるようになりました。営業現場では、顧客の具体的な課題に寄り添った提案が可能となり、商談化率は1.5倍、受注率は20%向上。さらに、顧客満足度の向上から解約率も大幅に低下し、LTV(顧客生涯価値)の最大化にも成功しました。
5.2 事例2 B株式会社(製造業)のケース
B株式会社は、特殊な金属加工技術を持つ工業用部品メーカーです。長年、特定の大手企業との取引に依存していましたが、その企業の業績悪化に伴い受注が激減。新たな販路を開拓しようにも、自社の技術力の価値を新規顧客にうまく説明できず、価格競争から抜け出せない状況が続いていました。
危機感を覚えた同社は、まず3C分析を用いて自社の強みを再評価しました。その結果、自社の「高温・高圧環境下でも高い耐久性を維持する特殊加工技術」は、ニッチな領域で圧倒的な競争優位性を持つことを再認識。市場を調査する中で、航空宇宙産業や最先端の医療機器分野において、「部品の軽量化」と「極限環境での高耐久性」を両立したいという強い潜在ニーズがあることを突き止めました。
次に、STP分析を用いて市場をセグメント化し、ターゲットを「軽量化と高耐久性が求められる最先端分野で、既存部品の性能に限界を感じている研究開発部門」に設定。具体的なペルソナとして「新素材の採用に意欲的だが、開発中の製品の耐久性基準をクリアできずにプロジェクトが停滞している、45歳の研究開発リーダー」を思い描きました。
そして、バリュープロポジションキャンバスを活用し、提供価値を再定義。「高い技術力」という抽象的な訴求をやめ、「貴社の製品開発における技術的課題を、当社の独自加工技術による『従来比30%の軽量化と2倍の耐久性』で解決し、開発のブレークスルーを実現します」という、顧客の課題解決に直結する具体的な価値提案を構築しました。
この再定義後、営業戦略を大きく転換。ターゲット業界の専門展示会への出展や技術系専門誌への情報発信に注力し、営業資料も技術的な優位性と顧客メリットが明確に伝わるよう刷新しました。その結果、これまで接点のなかった航空宇宙産業の大手メーカーとの共同開発プロジェクトの受注に成功。利益率の高い高付加価値案件の割合が増加し、事業ポートフォリオの改善と収益性の向上を同時に達成しました。
6. まとめ
市場環境が変化し続ける現代において、従来の法人営業に行き詰まりを感じる企業は少なくありません。売上が厳しくなると「新規顧客を獲得したい」思いが強くなります。もちろん間違いではないですが、新規の顧客にアタックして、既存で取引している他社と戦って勝てるのかを考える必要があります。
今回は、営業成果を最大化するためのターゲット顧客と提供価値の再定義について、具体的な3ステップで解説しました。時には、提供している商品/サービスの見直しも含めて、立ち止まってターゲットや提供価値を考えることは、とても重要になります。
本記事でご紹介した手法を参考に、自社の営業戦略を見直してみてはいかがでしょうか。